職種ガイド2026-08-18監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

とび職人の年収と将来性 — とび技能士で腕を証明する働き方

この記事の要点

「鳶は3Kそのものだと思われがちですけど、実は一番『技能検定を取った後の景色が変わる』職種かもしれません」——先日、鉄骨鳶を10年やっているという方とお話ししていて、そんな言葉が印象に残りました。

結論から言うと、とび職人の年収は経験年数ととび技能士の取得状況、そして雇用形態(会社員か一人親方か)によって大きく変わります。体力仕事という一面だけで語られがちですが、実際には国家検定という「腕を言葉にする仕組み」がある職種であり、それを使いこなせるかどうかで景色が変わってきます。今日はその中身を、年収の実例やよくある失敗も交えながら、順を追って整理していきます。

1. とび職人とは何者か — 足場鳶・鉄骨鳶・重量鳶という3つの顔

鳶という仕事は、建設現場における高所作業のプロフェッショナルです。足場の組み立て・解体を専門とする「足場鳶」、鉄骨造建物の骨組みを組み上げる「鉄骨鳶」、重量物の運搬や据付を担う「重量鳶」の大きく3つに分かれます。町場の戸建て現場から超高層ビルの建設現場まで、鳶がいなければ他の職人は作業に入れません。基礎工事が終わった更地に最初に足場を組むのも、上棟時に鉄骨を吊り上げて組むのも鳶の仕事です。「現場の一番最初と一番高いところにいるのが鳶」と言われる所以はここにあります。

その分、危険と隣り合わせの仕事でもあります。厚生労働省が公表している労働災害発生状況の統計でも、建設業の中で高所作業を伴う職種は労働災害の発生率が相対的に高い分類に入ると指摘されています。だからこそ、経験と技能に裏打ちされた「落ちない・落とさない」判断力が、そのままその人の市場価値になる職種だと僕は考えています。先ほどの方も「新人の頃は怖くて動けなかったのが、5年経つと逆に足場の歪みや資材の置き方の違和感にすぐ気づくようになった」と話していて、体で覚える技術の蓄積そのものが評価対象になる職種なのだと感じました。実際、その方の現場では新人の頃と比べて任される作業範囲が3倍近くに広がったそうで、「見えているものが変わった」という表現がしっくりくると言っていました。

2. とび技能士という国家検定 — 1級・2級・3級で何が変わるか

とび職人の技能を国が証明する制度が「とび技能士」です。技能検定制度の中の建設関係職種のひとつで、1級・2級・3級に分かれ、学科試験と実技試験の両方に合格する必要があります。実技試験では単管やクランプを使った足場の組み立て、墨出し、資材の配置などを制限時間内に行い、安全帯の使い方や作業手順の合理性まで見られます。現場での作業をそのまま試験にしたような内容なので、経験がある人ほど有利で、逆に言えば「経験を証明する客観的な手段が少ない鳶という仕事」において、数少ない物差しになります。

3級は入職後まもない人向け、2級は実務経験おおむね2年以上、1級は7年以上を目安に受験資格が設定されています(実務経験年数は職業訓練歴等により短縮される場合があります)。1級を持っていると、現場での職長や作業主任者としての信頼度が上がり、元請けから名指しで声がかかるケースも珍しくありません。あわせて玉掛け技能講習、高所作業車運転技能講習、足場の組立て等作業主任者技能講習といった関連資格を組み合わせている人ほど、現場での役割の幅が広がる傾向があります。実技試験の練習は独学が難しく、会社の先輩や職業訓練校の実技講習を頼るのが近道です。試験直前の1〜2ヶ月は、休日を使って模擬の足場を組む練習に充てる人が多いようです。学科は法規や材料力学の基礎知識が中心で、通勤時間や休憩時間にテキストを読み込むだけでも十分合格ラインに届く、という声もよく聞きます。

3. 年収のリアル — 経験年数と雇用形態で変わる「鳶の稼ぎ方」

数字の話をします。ただしここで挙げるのは統計の平均値をそのまま切り取ったものではなく、経験年数や雇用形態によって変わる「目安値」として捉えてください。厚生労働省の賃金構造基本統計調査など公的統計を見ると、建設業の技能者の給与カーブは他産業に比べてなだらかで、年齢よりも経験と職責で差がつく傾向があります。

僕の体感値になりますが、鳶として現場に入って3〜5年、2級とび技能士を持っている人だと日給1万5000円前後、月20日稼働で年収400万円前後というのがひとつの目安です。ここに1級を取得して職長クラスになると、日給1万8000円〜2万円台、年収500万円台に乗ってくる人も出てきます。

経験年数の目安とび型枠大工鉄筋工
1〜2年300万円台前半300万円台前半300万円前後
3〜5年(2級相当)400万円前後420万円前後400万円前後
6年以上・1級相当500万円台550万円前後520万円前後

いずれもあくまで目安であり、地域差、元請けとの取引関係、繁閑差によって変動します。「隣の職種と比べて自分の水準がどのあたりにあるか」を把握する材料として使ってもらえればと思います。

雇用形態別に見ると、もう少し景色が変わります。仮に同じ1級とび技能士を持つ2人がいたとして、Aさんは会社員のまま職長を続け、Bさんは独立して一人親方になったとします。Aさんは賞与や社会保険がある分、年収の振れ幅は小さく、年間440万円前後で安定します。Bさんは日給そのものが会社員時代より2000円〜5000円ほど上がり、繁忙期の月収は60万円を超えることもありますが、閑散期は仕事がゼロという月も出てきます。年間で均すと450万円前後とAさんとさほど変わらない、というのが独立初期にはよくあるパターンです。独立して数年かけて元請けとの取引先を増やせたBさんの知人は、5年目で年収600万円を超えたと話していましたが、そこまでの間は生活防衛資金として最低でも3ヶ月分の生活費を手元に残しておくことが独立初期の必須条件だと僕は考えています。

4. 将来性 — 高齢化とインフラ更新が生む需要と、リスクの正体

建設業全体で就業者の高齢化が進んでいることは、国や業界団体の統計でも繰り返し指摘されている通りです。特に体力面の負担が大きい鳶は若手の入職が課題になりやすい職種ですが、裏を返せば人手不足そのものが単価を押し上げる要因にもなっています。老朽化した橋梁や高速道路の補修工事、都市部の再開発、再生可能エネルギー関連の鉄塔工事など、高所作業を必要とする現場は今後も一定量発生し続けると見られます。

一方でリスクの正体も直視しておく必要があります。高所からの墜落・転落は建設業の労働災害の中でも重大事故につながりやすい類型であり、だからこそ安全帯の正しい使用や作業手順の順守が、単なる規則ではなく自分の身を守る技術そのものになります。技能検定の実技試験で作業手順の合理性まで見られるのは、この現実を反映していると僕は理解しています。体力の限界を感じ始める40代以降は、現場作業から職長・安全管理・積算といった役割にシフトしていく人が多く、これも鳶というキャリアの一つの分岐点になります。実際、鉄骨鳶を10年やっているという先ほどの方も「50歳が見えてきたら現場よりも安全管理側に回るつもりでいる」と話していて、資格と経験の蓄積が体力の衰えをカバーする形で活きる好例だと感じました。

5. 稼ぐための戦略 — 資格の組み合わせと独立のタイミング

資格取得の順番としては、3級→2級→1級のとび技能士に加えて、玉掛け技能講習、高所作業車運転技能講習、足場の組立て等作業主任者技能講習を並行して取っていくのが現実的なルートです。これらは重複して取る人が多く、現場での「任せられる範囲」がそのまま増えていきます。

独立のタイミングについては、僕は「1級取得+職長経験3年以上+元請けとの直接の信頼関係」の3条件が揃ってからという目安を伝えるようにしています。腕だけで独立しても、仕事を継続的にもらえる関係がなければ収入は安定しません。また一人親方になる際は、労災保険の特別加入手続きを忘れずに行うことも重要です。高所作業という職種の性質上、この手続きの有無が万一の際の生活を大きく左右します。実務の順序としては、①1級とび技能士の取得(半年〜1年の準備期間)、②職長・安全衛生責任者教育の受講(2〜3日程度)、③特別加入の労災保険手続き(独立の1ヶ月前まで)、④元請け2〜3社との取引開始、という流れを半年〜1年かけて整えていくイメージです。この間に道具一式(単管・クランプ・安全帯の予備)を揃える資金として、30万円〜50万円程度を見込んでおくと独立後の資金繰りに余裕が生まれます。

6. よくある失敗と回避策

独立や資格取得の過程では、いくつか典型的なつまずきがあります。一つ目は「1級を取ってすぐ独立して、仕事が途切れる」パターンです。腕の証明にはなっても、発注元との継続的な信頼関係がなければ仕事は安定しません。独立前に元請け側の担当者と個人的な関係を築いておく、あるいは会社員のまま副業的に別現場を請けてみるといった段階的な準備が有効です。実際に、独立してから半年間仕事が月10日を切ってしまい、貯金を切り崩しながら取引先を開拓し直したという話も聞きます。こうした事態を避けるには、独立前の1年間で最低でも3社の元請けと直接顔を合わせる機会を作っておくことが現実的な備えになります。

二つ目は「実技試験対策を独学だけで済ませて不合格を繰り返す」パターンです。とび技能士の実技試験は制限時間内での正確な作業が求められるため、一人で練習していると自分の癖に気づきにくいという弱点があります。会社の先輩や職業訓練校の講習を頼り、第三者に手順をチェックしてもらうことで合格率は上がります。三つ目は「安全教育を後回しにして事故につながる」パターンです。高所作業に慣れてきた頃こそ油断が生まれやすく、経験年数に関わらず安全帯の点検や作業手順の確認を習慣化しておくことが、結果的に長く現場に立ち続けるための一番の近道になります。

(結論)

とび職人の年収と将来性は、資格の有無だけでなく、経験年数・雇用形態・そして安全に対する技術の積み上げによって決まっていきます。とび技能士という国家検定は、その積み上げを外部に証明するための数少ない手段であり、独立や職長への道を考えるなら早い段階から取得計画を立てておく価値があると僕は考えています。皆さんいかがでしたでしょうか。では今日もがんばりましょう。

よくある質問

Q. とび技能士は何年の実務経験で取得できますか?

とび技能士は3級・2級・1級に分かれており、3級は入職後まもない方向け、2級は実務経験おおむね2年以上、1級は7年以上が受験資格の目安です。職業訓練歴などにより短縮される場合もあるため、詳細は都道府県職業能力開発協会の最新要項で確認することをおすすめします。

Q. とび職人の年収は本当に他の建設職種より低いのですか?

一概には言えません。僕の体感値ですが、経験3〜5年・2級取得で年収400万円前後、1級取得後の職長クラスで500万円台に乗るケースがあり、型枠大工や鉄筋工と大きく変わらない水準です。危険手当がつく分、単価自体は高めに設定される現場も多くあります。

Q. 1級を取ってすぐ独立しても大丈夫ですか?

資格だけで独立すると仕事が途切れるケースをよく見ます。腕の証明にはなっても、発注元との継続的な信頼関係がなければ収入は安定しません。1級取得に加えて職長経験3年以上、元請けとの直接の関係を築いてから独立を検討するのが現実的な目安だと僕は考えています。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。

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