職種別キャリア2026-07-16監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

塗装職人の年収と将来性 — 塗装技能士で腕を証明する働き方

この記事の要点

「塗装なんて、誰でもできる仕事でしょ」と、ある異業種交流会で言われたことがあります。僕はその場では話を合わせて笑いましたが、内心では少し違うと思っていました。

結論から言うと、塗装職人という仕事は「誰でも始められるが、誰でも食えるわけではない」職種だと僕は考えています。ローラーと刷毛を持てば誰でも塗ることはできます。ですが、下地処理の見立てを誤れば数年で剥がれ、色の選定を誤れば施主とのトラブルになり、耐用年数の説明を怠れば次の仕事につながりません。今日は塗装職人の年収の目安値、塗装技能士という国家検定の使い方、そして独立や事業承継まで含めたキャリアの選択肢を、僕なりの体感値も交えて整理してみたいと思います。

0. 塗装職人という仕事を軽く見ると痛い目を見る理由

以前、ある塗装会社の親方から聞いた話があります。新人が外壁の色ムラを「そのうち馴染むから大丈夫」と言って納品してしまい、施主から再塗装を求められたことがあったそうです。塗料は乾燥後の色の出方が刷毛の運び方や塗布量で変わるため、経験の浅い人ほど「見た目で判断していい範囲」の見極めを誤りやすいと僕は感じています。塗装は単純作業に見えて、実は下地の状態・気温・湿度・塗料の粘度という複数の変数を同時に扱う技術です。だからこそ、経験年数がそのまま単価に反映されやすい職種でもあります。

僕の体感値で言うと、塗装業界は今、二極化が進んでいます。一つは「安く早く」を売りにする量産型の下請け、もう一つは「長持ちする塗装」を丁寧に説明できる職人型です。後継者不足が進む業界全体の構造の中で、後者のポジションを取れる人ほど、将来的に選ばれる側に回れると僕は見ています。誰でも入れる入口の広さと、生き残るための専門性の深さが両立している職種、というのが僕の塗装職人に対する印象です。もう少し具体的に言うと、下地処理の丁寧さと施主への説明の丁寧さは、実は同じ「見えないところへの気配り」という一本の線でつながっている技術だと僕は思っています。

1. 塗装職人の年収はいくらか——独自ガイドの目安値と変動要因

年収の話は個人差が大きいので、あくまで独自ガイドの目安値として捉えていただきたいのですが、雇用されて働く塗装工でおおむね300万円台後半から400万円台という体感値を僕は持っています。一人親方として元請けの下請けに入る場合は、年収500万円前後まで伸びる方も少なくありません。さらに施主から直接受注できる体制を作れた場合、600万円を超えるケースも見てきました。

この差を生む変数は「腕」だけではないと僕は考えています。具体的には次の3つが大きいと感じています。第一に、元請けか下請けかという受注段階の違いです。下請けに入るほど中間マージンが抜かれるため、同じ作業量でも取り分が減ります。第二に、施主との直接的な信頼関係の有無です。塗装は数年〜十数年後にまた同じ施主から声がかかる可能性がある仕事なので、固定客を持てるかどうかが安定性を左右します。第三に、見積りの言語化力です。同じ塗料を同じ面積に塗っても、耐用年数の違いや保証内容の説明力によって単価が変わるのを、僕は現場で何度も目にしてきました。

加えて、僕が個人的に見落とされがちだと思っている変数がもう一つあります。それは「閑散期の使い方」です。塗装は梅雨や真冬に現場が減りやすい季節性のある仕事で、この閑散期に内装塗装や小口のリフォーム塗装を組み合わせられる人ほど、年間の年収がなだらかになる傾向があると僕は感じています。逆に外壁塗装だけに絞っている一人親方は、季節によって月々の収入の振れ幅が大きくなりがちです。

2. 塗装技能士という国家検定をどう使うか

塗装技能士は、中央職業能力開発協会(JAVADA)が実施する技能検定制度の一つで、1級・2級それぞれに学科試験と実技試験があります。試験は都道府県ごとに実施され、実技では下地処理から仕上げまでの一連の工程が評価されます。国家検定である以上、合格には一定の実務経験の年数が受検資格として求められる点も特徴です。

僕がこの資格を勧める理由は、単に「腕の証明になる」からではありません。施主や元請けは、塗装の仕上がりの良し悪しをその場で判断するのが難しい商材です。だからこそ、資格という第三者の評価基準があることで、見積り時の説明に説得力が生まれると僕は考えています。「1級技能士が担当します」という一文が入るだけで、施主の安心感が変わる場面を、僕は何度も見てきました。逆に言えば、資格を持っているだけで仕事が来るわけではなく、資格を「説明の道具」として使いこなせるかどうかが分かれ道になります。

もう一つ付け加えたいのは、資格取得の過程そのものが技術の棚卸しになるという点です。実技試験の練習をする中で、普段は現場の勢いで済ませてしまっている工程を一つずつ確認する機会が生まれます。僕の知る何人かの職人は、資格取得の準備期間そのものが、自分の癖や苦手な工程に気づく良いきっかけになったと話していました。

資格・実務経験の段階できるようになること(目安)年収への影響(体感値)
未経験〜3年未満下地処理・吹き付けの補助作業雇用型で300万円台前半が目安
塗装技能士2級・実務3〜7年一人で現場を任される、見積り補助雇用型で400万円台、独立で500万円前後
塗装技能士1級・実務7年以上施主説明・保証設計・後進の指導独立・元請け直請けで500〜600万円台以上

3. よくある失敗と対処——僕が見てきた3つのパターン

独立初年度に失敗しやすいポイントは、僕の見てきた範囲でおおむね3つに絞られます。一つ目は色決めのトラブルです。塗料は乾いた状態と塗ったばかりの状態で色味の見え方が変わるため、施主が「イメージと違う」と感じるケースが少なくありません。対処としては、必ず乾燥後のサンプル板を見せる、日照条件が違う時間帯にも確認してもらう、という2段階の確認を僕は勧めています。

二つ目は耐用年数の説明不足です。「何年持ちますか」と聞かれて曖昧に答えてしまうと、後々のクレームの火種になります。塗料メーカーが公表している耐用年数の目安を根拠として示し、それに自分の体感値を上乗せして説明する、という順序を守るだけで信頼度が大きく変わると僕は考えています。

三つ目は保証書の不備です。口約束で「何かあれば直します」と言ってしまい、後から言った言わないの争いになるケースを僕は複数聞いています。簡易な保証書のひな形を1枚用意しておくだけで、この種のトラブルの再発率はかなり下がるはずです。腕の良さと、トラブルを未然に防ぐ仕組み作りは、別の技術だと僕は考えています。

これら3つの失敗に共通しているのは、いずれも「作業の腕」ではなく「作業の前後にある会話」で発生しているという点です。塗装の技術そのものは日々の現場で磨かれていきますが、こうした会話の設計は意識的に練習しないと身につきにくいと僕は感じています。

4. ケース比較——元請け社員/一人親方/塗装会社経営

塗装職人としてのキャリアは、大きく3つの道に分かれると僕は見ています。一つは元請けの塗装会社に社員として所属する道です。安定した給与と福利厚生がある一方、単価の決定権は会社側にあるため、腕を上げても年収の上限に頭打ちを感じやすいという声を僕はよく聞きます。

二つ目は一人親方として独立する道です。下請けとして元請けから仕事をもらう形が多く、独立直後は営業力がなくても仕事が回りやすいのが利点です。ただし単価は元請けが決めるため、腕だけでは年収は伸びにくく、いずれ施主との直接取引をどう増やすかが課題になります。

三つ目は塗装会社を経営し、従業員を雇う道です。事業承継のタイミングで既存の顧客基盤と屋号を引き継げる場合、ゼロから営業をする必要がなく、比較的早く安定した受注を確保できる可能性があると僕は考えています。ただし経営には人材育成や資金繰りといった、塗装の腕とは別の能力が求められます。

どの道が正解ということはなく、自分がどの変数——安定性、裁量、収入の上限——を優先したいかで選ぶべきだと僕は思っています。ちなみに僕の体感値では、一人親方から施主直請けの割合を増やしていく過程で、最初の3年ほどは営業活動に時間を割かれて手取りが伸びにくい時期があります。この時期を「投資期間」として割り切れるかどうかが、後の年収の伸びを左右すると感じています。

5. 今日からやれる実務アクション

ここまで抽象的な話をしてきたので、今日から動ける具体的な手順を挙げておきます。一つ目は、今の自分の実務経験年数を数えて、塗装技能士の受検資格を満たしているかを都道府県の職業能力開発協会のウェブサイトで確認することです。所要時間は30分程度で済みます。資格取得のスケジュールを逆算するだけでも、次の1〜2年の動き方が見えてきます。

二つ目は、過去に自分が手がけた仕事の中で「施主から感謝された仕事」を3件書き出してみることです。これは30分あればできる作業で、営業資料としても使えますし、自分がどの種類の仕事にやりがいを感じているかを言語化する練習にもなります。

三つ目は、簡易な見積り説明シートと保証書のひな形を、今の会社の名義でなくても個人用に1枚作ってみることです。こちらは1時間程度で下書きができるはずです。実際に独立するかどうかは別として、こうした道具を用意しておくだけで、いつか独立や事業承継の話が持ちかけられたときに動き出しが早くなると僕は考えています。

四つ目に、閑散期の仕事の候補を一つ考えておくことも勧めたいです。内装塗装、家具の塗り直し、小口のリフォーム塗装など、外壁塗装の閑散期と時期がずれる仕事を一つ把握しておくだけで、年間の収入の振れ幅を小さくできる可能性があります。備えておくことと、実際に動くことの間には距離がありますが、備え自体はいつ始めても遅くありません。

6.(結論)これからの塗装職人に必要なのは「腕」+「言葉」

塗装職人という仕事は、後継者不足が進む業界の中でも、比較的「誰でも入口に立てる」職種だと僕は考えています。ただし、そこから年収を積み上げていけるかどうかは、腕の良さだけでは決まりません。塗装技能士という国家検定を使って自分の技術を言葉に変えられるか、色決めや耐用年数の説明で施主の不安を先回りして解消できるか、そして自分がどの働き方——雇用・独立・経営——を選ぶかを自覚的に決められるか。この3つが、僕の見てきた範囲では年収の差を生む本質的な変数だと思っています。

皆さんいかがでしたでしょうか。塗装という仕事の奥行きを少しでも感じていただけたなら幸いです。では今日もがんばりましょう。

よくある質問

Q. 塗装職人の年収はどれくらいですか?

独自ガイドの目安値としては、雇用されて働く塗装工でおおむね300万円台後半から400万円台、一人親方で元請けの下請けに入る場合は年収500万円前後まで伸びる方もいますが、施主から直接受注できるようになると600万円を超えるケースもあると僕は見ています。ただしこれは地域差・繁忙期の差が大きく、あくまで目安値として捉えてください。年収は「腕」だけでなく見積り力・営業力・固定客の有無で大きく変わります。

Q. 塗装技能士の資格は独立に必須ですか?

必須ではありません。塗装業は資格がなくても営業自体は可能です。ただし僕は、塗装技能士(1級・2級)を持っていることが施主や元請けに対する信頼材料になり、見積り時の説明力を上げると考えています。特に外壁塗装のように施主が価格の妥当性を判断しづらい商材では、資格の有無が受注の決定打になる場面を何度も見てきました。

Q. 未経験から塗装職人になるにはどうすればいいですか?

多くの方は塗装会社に見習いとして入り、3〜5年ほど下地処理や吹き付けの基礎を身につけてから塗装技能士2級の受検資格を得る、という順路をたどります。独自ガイドの目安値では、未経験入職から一人で現場を任されるまでにおおむね3年前後かかると僕は見ています。焦らず段階を踏むことが、結果的に一番早い遠回りだと考えています。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。

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